グローバルに働く公認会計士のブログ

オーストラリアで働いています

公認会計士が教える役員報酬の開示(カルロス・ゴーン事例)

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日産のカルロス・ゴーンが先月19日に逮捕されてから、今月再逮捕に至り、連日海外も含めてメディアを騒がせています。

私はオーストラリアに住んでおり、オーストラリアのニュースでも大きくこの件を取り上げられています。

www.abc.net.au

話は逸れますが、日本の大きなニュースは海外のメディアでも取り上げられており、内容に馴染みがあるため、英語学習者にとってもとても良いリーディング教材になると思っています。またどこかで私のよく見る海外メディアの紹介をしたいと思います。

 

さて、カルロス・ゴーンが逮捕された容疑が「有価証券報告書の虚偽記載」。この言葉に馴染みのある方は多いかもしれませんが、堀江貴文氏も同容疑で検挙されています。

この容疑で逮捕された人は他にもおり、法制度の良し悪しはここでは議論しませんが、疑問を持っている人も少なからず多いように思います。

Bloombergの下記の記事でも、問題点について指摘しています。(すみません、なぜか上手くリンクが貼れませんでした)

https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2018-12-13/carlos-ghosn-s-arrest-japan-needs-criminal-justice-reform

 

投資や会計分野に馴染みがないと、有価証券報告書自体が何なのか不明な方も多いと思います。せっかくニュースで取り上げられたので、ここで一つ知識を増やしましょう。

 

 

 

1. 有価証券報告書とは

有価証券報告書とは、金融商品取引法で要請される法定の決算報告資料です。事業年度末の3ヶ月以内での提出が求められます。

主には上場会社に提出義務があります。

この内容に虚偽記載があれば、金融商品取引法に違反していることとなり、罰せられます。もちろん、単純に間違っているだけのケースと悪意が認められるケースで大きく扱いが異なります。

有価証券報告書自体は、たまに間違ってるので、修正しますという訂正報告書もよく出されています。会計と開示はとても複雑なため、会社も監査法人とかなりの時間をかけて有価証券報告書を作成していきます。

 

2. 有価証券報告書の内容

実際にどんな内容が含まれているのか、ざっくり説明します。

目次として、大きくわけると下記のようになります。

実際に日産の2017年度の有価証券報告書を使っています。

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100ページ超あるので、仕事で見る際も特定の項目しか見ません。特に財務情報を扱った経理の状況はこの半分を占めるため、専門家でないとなかなか読み解くのは難しいです。

就活生の方などは、より詳細に企業分析をするには、有価証券報告書に目を通してみるのもいいかもしれません。全上場会社が同様のフォーマットを元に作成するため、IR資料にあるようなミスリードも少ないと思います。

 

3. どこに虚偽記載があるとされたのか

今回は、この中で第4提出会社の状況 6コーポレート・ガバナンスの状況等 ④役員の報酬等に開示されている下記の報酬が過小であると指摘されています。

コーポレート・ガバナンスのところに虚偽記載があるとか皮肉もいいところです。

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カルロス・ゴーンの報酬は7億3千5百万円です。報道では50億円過小であるとされています。

日本の中では、超高額報酬ですが、海外では普通だとする見方も多いみたいですね。日産という日本屈指の自動車メーカーを立て直したのだから高額報酬も当然だと思いますが、虚偽記載することは話は別です。

この開示は、個人別に役員報酬が1億円以上ある場合に求められています。

なお、東京商工リサーチによると、2018年3月期で開示対象となった人数は538名だったそうです。

www.tsr-net.co.jp

記事によると、ソニーの平井会長が27億円でトップだったそうですが、カルロス・ゴーンが適切に開示していれば、ダントツでトップだったことになりますね。

 

4. なぜ役員報酬の開示が必要なのか

そもそもなぜ役員報酬について個別の開示まで必要とされているのかについて述べたいと思います。

本制度は2010年3月期決算より導入されています。導入当初は様々な反対意見もありましたが、アメリカやイギリスではすでに開示されていることから、日本もグローバルにコンバージョンする目的や、そもそも個々の役員は株主に委任されたものであり、委任の関する費用を知ることは当然の権利であるとされたことなどが背景にあります。

 

5. Appleの役員報酬は?

アメリカでも同様の制度があると述べましたが、最後にAppleの開示資料を見ようと思います。

アメリカには、SEC (Securities and Exchange Commission)があります。日本でいう金融庁みたいなものです。

SECからの要求で、高額報酬の役員には、開示義務があります。

www.sec.gov

 

実際のAppleの開示は次のようになっています。

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驚いたのが、Tim Cookが一番高額ではないこと。あと、開示対象になる人数が多いことです。ベースサラリーは少ないですが、その他のインセンティブがかなり大きいですね。

興味のある方は下記から見てください。

Apple SEC Filing ->Proxy Statement (definitive)

https://investor.apple.com/investor-relations/sec-filings/default.aspx

 

6. まとめ

役員報酬の開示は、株主の立場から必要なものであることを述べました。それは、金融商品取引法で要請されるものであり、アメリカやイギリスでも同様の制度は存在します。

カルロス・ゴーンの虚偽記載については、あってはならないことだとは思いますが、海外のメディア含めて議論を巻き起こしていることにも注目すべきだと思います。

なお、自分の会社の役員がいくらもらっているかを確認したければ、有価証券報告書で見ることができますので、調べてみてください。(上場会社で、1億円以上の場合のみですが)

 

Ryohei